佐賀市には、生産者のみなさんがこだわって作ってきたおいしい商品がたくさんあります。より多くのみなさんに商品を知っていただきたい。そんな思いから始まった佐賀市の認定制度『いいモノさがし』。
『いいモノさがし』の認定品を送り出されている事業者さんに、あんなコトやこんなコトを聞いてきましたのでご紹介します。
第四回は、佐賀市諸富町「えがちゃん農園」の江口浩二さん・啓子さん(②編)です。
※平成30年3月に佐賀市の公式フェイスブックに掲載された記事からの転載です。
商品開発秘話! にんにく卵黄からはねにんにくオイルまで
えがちゃん農園・江口浩二さんと啓子さんへの今回のインタビューは、はねにんにくオイル完成までの商品開発のお話をうかがいます。
◎最初のトライは、にんにく卵黄
――はねにんにくオイルに行き着くまでには、いくつも加工品を手がけてこられてますね。
江口浩二さん:はい、最初はにんにく卵黄でした。いろいろ試行錯誤しているときに、「大分で、おばあちゃんが自分で作っているのがあって、なかなかいいよ」と話を聞いて取り寄せて飲んでみたり、自分で作ったにんにく卵黄をずっと飲んでました。そしたら、うちの奥さんは偏頭痛持ちだったんですが、それがぴたっと治ったんですよ。
――にんにく卵黄で?
奥様の啓子さん:そうです。体調も本当によくなって。
江口さん:ただ、にんにく卵黄の作業は大変で、練るだけで8時間。そこから広げて、乾燥させて、カットして、丸めて、また乾燥させて......と完成まで1か月程度かかります。 売れる段階になって、ぼちぼち売れてはいたんですが、ふと「でも、もうにんにく卵黄の時代じゃないんだよなあ」と思って。その頃はすでに黒にんにくが流行ってました。
――東京新橋にある島根・鳥取の物産館で黒にんにくがすごく人気でした。
江口さん:その辺りもそうですが、全国どこにもあるんです。それで黒にんにくに転向しました。
奥様の啓子さん:二人でがんばっても、にんにく卵黄は作るのに手間がかかりすぎました(笑)。
江口さん:にんにく卵黄は本当に寝れない状況でした。次の黒にんにくも、うちで栽培したはねにんにくを使った黒にんにくです。
――あれはどうやって黒くなるんですか?
江口さん:発酵・熟成させるんです。ただ、食感がべちゃべちゃっとするのが、奥さんがいやだと、「これ、なんとかして」と言うんです。それでいろいろ手を加えて出来上がったのが、えがちゃん農園の黒にんにくです。 でも、自分では、黒にんにくもしっくりはこなかった。「ちょっと時代遅れだな、乗り遅れとるな......」という気はしていました。この時点では、ほかに秘伝のたれやみそも作っていましたし、
◎料理人だった経験が役に立った
――ご主人が料理人でいらしたからこそ、「こういう商品があったらいいのに」と思いつかれるんでしょうね。
江口さん:そうなんですよ! そのことはにんにくを作り始めた最初から、明確に意識してました。
――ご主人の考え方を伺っていると、佐賀市が提唱している6次産業の定義にぴったりだなと思います。
江口さん:生産、加工、販売をトータルで行なう業者ですね。それを6次産業と言うことさえ考えてませんでした(笑)。佐賀市の農業振興課の方たちに指摘されて、「ああ、うちは6次産業なのか」と。
――秘伝のたれやおみそが最初に作った加工品。それを最初からオンライン販売なさった?
江口さん:みそはオンラインでは売ってません。無添加だったら、みそを「月5000個ぐらいとるよ」というところもあるんですが「いやです」と断って。
――なぜ、おいやなんですか?
江口さん:みそづくりも大変なんですよ(笑)。単価的に見て、「これで商売できる、食べていける」という商売の核や柱にはならない。
――商売としてトータルに考えたときに。
江口さん:まず自分たちが食べなきゃいけないんです。その次に、自分たちが引退する年齢に近づいているということ、つまり、若い人たちを必ず「農業って楽しいんだよ」と後継者に引っ張ってこなきゃなりません。 いま私は56歳ですが、あと4年で60歳になる前に、若い後継者を見つけて譲りたいと思っています。だから、それまでに絶対、食べられる状態にしてやらないと誰もこない。おまけに「農業って面白いよ」という枠組みも作ってあげて、バトンタッチです。あと4年でできるかなと思いつつ。
――お子様は?
江口さん:うちは娘一人なんで、いまは興味はないようですが、稼げるとわかったらやるのかもしれないですねえ(笑)。べつに他人でいいんです。向いてないとできませんから。
◎農業は人間関係のストレスなし
――飲食店経営より農業のほうがいいですか?
江口さん:(きっぱりと)いいです。ストレスって対人間でしょ? 農家にはストレスはないですよ。毎日、嫁さんより、にんにくに気を遣ってればいいんですから(笑)。お店をやってた頃は、お客さんと話すのがとても苦手でした。 キッチンは完全裏キッチン、カウンターに人を置いて、そこでお酒とか出して、自分はお客さんの前で料理しない形式にしていました。いけすも持ってたんですが、中に入れて。
――いけすも見せないんですか(笑)?
江口さん:いや、魚は見せるけど、さばくところは見せない。そんなだから、お客さんに「あとで出ていくからね~」と言いながら、「今日は最後まで大将の姿を見なかった」と言われるとそれも気になって、そのうち、いけすだけはカウンターでお客さんと話しながらさばける造りに店を作り変えたんですが、ものすごく苦でした。
――でも、とても話すのが苦手とは思えませんし、こうやってインタビューにお答えになるのはすごくお話上手だと思いますが。
江口さん:いまのにんにくの話をするのはいいんです。だって、農業をしてると販売に行かない限り、人と話さないでしょう?
――じゃあ、私たちは久しぶりに会ったよその人たち。
江口さん:そうですよ(笑)。でも試食販売に出かけると、いつも奥さんから、「いつもいないよねえ......どっかでうろうろして」とは言われます。
――えがちゃん農園の加工品は、最初はにんにく卵黄とみそと秘伝のたれ。
江口さん:にんにく卵黄はずっととってくれている人がいたので止めませんでしたが、「やりたい」と言う人がいたのでノウハウを教えました。いまは、うちのはねにんにくを原材料にして、その人がにんにく卵黄を作っています。 はねにんにくの前に、ドレッシングも作ってたんですよ。トマトドレッシング、しいたけドレッシング、ねぎドレッシング......。どうしても無添加の生、にしたくて、とくにねぎドレッシングに力を入れました。でも、緑色が出ないんですよ、成分が分離してしまって。農業大学校に持って行って、「何とかならならないだろうか」といろいろ試しましたが、添加物を加えないと無理だとわかりました。 「もう生ドレッシングとして、賞味期限2か月で売ったらどうですか」と言われましたが、賞味期限2か月のドレッシングなんて、佐賀のあたりでは手売りするしかない。誰も相手にしてくれない。ドレッシング自体、商談会でもバイヤーは振り向かないですから。
――それは、ドレッシングは差異化が難しいからでしょうか?
江口さん:そう、ドレッシングは種類が山ほどあるでしょ? 競合他社が多すぎて、「とてもそこに食い込んでいけないですよ」とバイヤーにもすぱっと言われました。その頃は、ねぎドレッシングは一応、売ってたんですけどねえ。びんの角にラベルの正面が来るように貼って、なかなかおしゃれにしてよかったんですけどねえ(笑)。 前回お話ししたように、にんにくも夏場はできない状態が3年続いて、「もう今年、だめだったら止めよう」と夫婦で言い合いました。
◎認知症に効果のあるアホエン成分をにんにくオイルに
――そこまで追い詰められたんですか。
奥様の啓子さん:夏場はずっと全滅ですから。
江口さん:夏場は1円もならない。それが4年目ぐらいまで続いたかなあ。その頃、ねぎドレッシング用のびんを大量にとっていたので、余ってるんです。ことあるごとに、奥さんが「あのびんをどうするつもり? こんなにとっちゃって......もう、なんとかして」と何度も言うんですよ。本当にいっつも。 300~400個ぐらいのびんなんですけど、邪魔になるし、金にはならんしと。そのとき、たまたま母を病院に車で連れて行ったら、病院に手書きのポスターが貼ってあって、「2025年、認知症患者650万人」と書いてあったんです。 2030年には1千万人を超えるそうですが、「そうか、じゃあ何かできないか」と思って、いろいろ調べたら、アホエンという成分が認知症に効果があるとわかったんです。 もちろんオイルとアホエンの両方がある一定の条件にないとできないのですが、そこからはねにんにくオイルのアイディアが生まれました。
――はねにんにくオイルはすぐできましたか?
江口さん:いいえ~。とりあえず、にんにくオイルから作ろうとオリーブオイルを買ってきて作ったら、まずい、まずい(笑)。 作り方が悪いのかと思ってオイルを変えたら、最初よりはまし、それでもまずいので、しばらくはあきらめて放置......でも、オリーブオイルのよさそうなのを見つけると、試してみてということを1年ほど続けました。そして、いま使っているこのオイルに出会ったんです。
――オリーブオイルが問題だったんですか?
江口さん:オイルとうちのはねにんにくとの相性の問題ですね。そこに行くまで、30種類は試しました。決定打のオイルで作ったにんにくオイルはそのままで、「これいけるんじゃない?」「そうね」と夫婦で言い合う出来栄えでした。オイルの作り方自体が問題ではなかったので、30回も試作していると、オイル作り自体も完成形の段階に知らず知らずのうちに達してたんですね。それで「これはいける」と思い、佐賀県のフード&コスメラボ(旧・徐福フロンティア)に成分分析を依頼しました。
――はねにんにくオイルの誕生ですね。いつのことですか?
江口さん:成功したのは3年ほど前だから......2015年です。『いいモノさがし』に認定されたのは2016年です。
――見た目もとってもきれいですよね。
江口さん:これができて、ようやく全体に商売として上向きかけて......はねにんにくオイル完成の頃は、まだひげにんにくでしたが、やがて、うちのオリジナルはねにんにくになりました。
――ということは、はねにんにくオイルの完成と、佐賀の気候にあった夏場のにんにく作りも同時期に光が光がさしたと。
江口さん・奥様:そうですねえ。
――見た目がおしゃれで、健康にもいい。というのがお客さんには人気なんでしょうか?
江口さん:自分の場合は、「味」だと思ってます。味がおいしい、毎日食べられるというのが絶対条件。それがあって、自然と食べてたら健康になったという後づけの健康のほうがいいと思うんですね。
――なるほど。健康食品とは違うんですね。
江口さん:「健康商品として売り出せば?」ともいわれるんですが、どうなんでしょうかねえ......「健康のために食べる」より「美味しいから食べる」でなければ、リピーターになってもらえないんじゃないかな。
――健康というとご高齢の方や持病のある方とか、ターゲットも狭くなるでしょうか。大都会のヘルシー志向の奥さんや女性は手に取りにくい。でも、このきれいなボトルが元は余っていたねぎドレッシングのびんだったとは(笑)。
江口さん:そう、華麗なる変身でしょう? やっぱりお金がないから一生懸命考える。パッケージや売り方も資金が潤沢にないからこそ、生まれたものです。
――はい、ではその続きはまた次回に。
(この項つづく)